生徒から見た「基礎情報学」
基礎情報学研究会・高校教員チーム
(京都市立西京高等学校・藤岡健史、青森県立黒石高等学校定時制・下村誠、埼玉県立大宮武蔵野高等学校・中島聡)

1.はじめに

 文理の融合を目指した「基礎情報学」は、現在および未来の情報社会を考え、そして新たに構築・改変する上で欠かすことができず、あらゆるタイプの生徒に必要な内容である。しかしその反面、高度な論理性から高校生には難解であるとされる節がある。この一般的な通説の正否を、タイプの違う3つの学校における授業実践から検証した。

2.目的と方法

 生徒の立場から、「基礎情報学」の内容伝達度とその効果をミニットペーパーを利用して評価・検証する。ミニットペーパーは選択式が1問、記述式が4問で構成した。選択式の選択肢は以下の通り。記述式に関しては配布資料を参照。
  選択式の質問 授業の理解度について この授業内容の理解度を自己評価し最も当てはまるものを選択してください。
  1. ほぼ完全に理解できた。
  3. 理解した部分と分からなかった部分(疑問点)が半々程度であった。
  5. ほとんど分からなかった。
  2. 概ね理解したが、部分からない部分(疑問点)があった。
  4. 分からなかった部分(疑問点)が半分以上あった。

3.調査対象の学校及び授業内容

 調査は基礎情報学研究会に参加している3名の教諭が所属する高校で授業実践の後におこなった。対象とした授業は、今年度の「基礎情報学」の基本的な内容(情報の定義、生命情報、社会情報、機械情報など)に関したセクションである。各校で行った授業は、西垣通著『生命と機械をつなぐ知』及び西垣通監修・中島聡編著『生命と機械をつなぐ授業』(いずれも高陵社書店)をベースとしているが、まったく同じものではない。内容はもちろん授業時間も含め個々の教員が生徒の状況によりアレンジや工夫を施している。なお、各校の特徴および授業の詳細は下記の通り。  
  京都市立西京高等学校 青森県立黒石高等学校(定時制) 埼玉県立大宮武蔵野高等学校






  • エンタープライジング科(普通科タイプの専門学科)全日制。前・後期制。50分授業。
  • 国公立大学への進学者が多数の学校。附属中学を併設(1学年7クラスのうち附属中学からの内部進学は3クラス)。
  • 高校入学時に1人1台ノートパソコンを購入。情報以外の授業でも積極的に活用。
  • 普通科夜間定時制。3学期制。45分授業。
  • 情報(情報A)・商業科目(情報処理・商業技術・ビジネス基礎)を加味している。
  • 学校設定科目として「チャレンジ(危険物取扱者、漢字、英語、情報処理技能、電卓技能)」を設定、資格取得に力を入れている。
  • 平成27年度末に閉課程となる(今年度1年次はいない)。
  • 普通科全日制。3学期制。50分授業。
     参考「2012年卒業生進路状況」
      4年制大学 18%、 短大  9%、
      専門学校  40%、 就職 14%、
      その他 19%

実施
学年
  • 1年次2クラス(内進1クラス、外進1クラス)のみ。男女比は約半々。
  • 2年次。男子16、女子7 計23名。
  • 1年次7クラス。35人学級。男女比約3:6。



調








  • 第1回の授業は「情報とは」(2時間連続)。4人ずつのグループに分かれ、情報とは何かについてディスカッションさせたあと『生命と機械をつなぐ授業』の第1章をもとにした内容を説明。
  • 第2回の授業は「メディアリテラシー」(2時間連続)。『生命と機械をつなぐ授業』の第2章「3つの情報概念」をもとにした内容を説明した後、社会情報との関連からメディアリテラシーについて説明。その後、実際の新聞記事を用いたディスカッションを実施。

  • 上記の各回の最後にミニットペーパーを記入させた。
  • 回収率はほぼ100%。
  • 高等学校 三訂版 『情報A』(第一学習社)と『生命と機械をつなぐ授業』を組み合わせてプリント(穴埋め・記述)を作成>。内容は第1章「知覚と意味、そして情報」と第2章「3つの情報概念」である。
  • 授業は共に講義3時間と問題演習1時間。講義については双方向のコミュニケーションを心がけて展開した。また、生徒同士で意見を交換する時間も作っている。

  • ミニットペーパーは問題演習の時間に実施。
    ※「3つの情報概念」では時間の都合により、記述部分の回収を行っていない。
  • 『生命と機械をつなぐ授業』より第1章「知覚と意味、そして情報」及び第2章「3つの情報概念・人の意識」をほぼそのまま>実践。>授業形態はプリントとプレゼンテーションを用いた通常の座学スタイル。授業時間は共に1時間+時間が足りなかった分の補足。
  • 詳細はYouTubeに公開中の授業ビデオ『生命と機械をつなぐ授業』を参照。

  • 自作の集計プログラムソフト「IPME」を利用し校内のコンピュータより生徒ごとに入力。入力には認証が必要なので、事実上の記名回答である。入力期限は概ね次の授業の前日まで。
  • 回収率は共におよそ92%。

4.結果

  京都市立西京高等学校 青森県立黒石高等学校(定時制) 埼玉県立大宮武蔵野高等学校
















  • 情報というのは、1人1人が感じる主観的なものだということが印象に残った。
  • 情報の受け取り方は人それぞれ違うということが大切だと思った。これが念頭にあるかないかで無用なトラブルは減るということもわかった。
  • 脳で感じている」というのが印象的だった。感覚も全ては感覚器官そのものではなく結局脳で認識しているのだと思うと、今ある現実に対して疑心暗鬼になりそうだ。
    ※ すべて「情報とは」より
  • 知覚(盲点)の部分は分かりやすかった。
  • 一言「こい」といっても多種多様な意味があることが分かった。
  • 生命情報、社会情報、機械情報の違いが分かった。
  • 「主観」と「客観」についてさらに知りたい。
    ※ すべて「知覚と意味、そして情報」より
  • 私たちが客観世界だと思っているものは、主観的に認識された擬似客観世界でしかないということ。そして情報によっても意味内容の伝達は不可能であり、決してお互いを理解することはできないということが印象に残った。自分が見ている世界は、主観的に構成されているということに驚いた。このようなことから本当の世界を見てみたいと思った。
    ※「知覚と意味、そして情報」より

  • 自分はいつも意識して行動していると思っていたけど、「無意識」で行動していることが多いことがわかったので驚いた。後、自分が持っている情報を相手に伝えたり、相手が持っている情報を自分に伝えられることで「情報」の種類が変わることが印象に残った。
    ※「3つの情報概念・人の意識」より








 授業中、生徒は大変興味を持って授業に取り組んでいた(ミニットペーパーの理解度や、生徒のコメントからもうかがえる)。総じてディスカッションにも積極的に参加していた。おおむね計画通りの授業ができたと考えている。
 授業コンテンツについては『生命と機械をつなぐ授業』をもとにし、授業者が話しやすい教材を適宜追加してアレンジした。アクティブラーニングの手法を併用したことが、理解度の向上に寄与した可能性があると考えている。
 興味と関心を持って取り組んでいたのが印象的だった。授業では生徒に質問をするようにしているが、しっかりした反応を示していた。授業中に内容についての質問も多く受けるようになり、関心・意欲・態度とも概ね良好であった。以上は、双方向の授業を心がけた結果と思われる。ただミニットペーパーのコメントが少ないのが残念であった(簡単にコメントを書くよう指導したが書けない生徒が多い)。    どちらの授業も40%以上の生徒が概ね理解したと回答している。授業内容と時間数さらに生徒の学力レベルを考えると、記名調査であることを差し引いたとしても、非常に高い値である。ただ、理解度を低く申告した生徒でも、的確なコメントを書いている場合が多数見受けられる。したがって、自己申告のデータを鵜呑みにすることは性急であると思われる。
 この2つの授業及びこれに続く「基礎情報学」に関する授業が生徒に対して強いインパクトを与えていることはYouTubeで公開している『生命と機械をつなぐ授業』ビデオからもうかがうことができる。  

5.考察

 3校の実践はまったく同じではないので単純に比較することはできない。内容や授業形態もさることながら、実施した時間数すらも異なっている。それでも、一般的な学力が「基礎情報学」の理解度に影響していることがうかがわれる。また、授業に要した時間数も理解度に影響していることも分かる。しかし、これらは他の教科科目と同じで特筆すべきことではない。注目すべき点は、実施した3学校すべてにおいて評価が高いことである。また記述による回答例及び配布資料の回答例から、今までと違う観点を身に付けた生徒が多数出現していることが分かる。これは実践者の印象とも一致している。以上より、生徒の学力に合わせた授業展開をすることにより、少なくとも「基礎情報学」の基本的な内容は伝達されることは間違いないと判断できる。高校生に「基礎情報学」は難解すぎることは決してない。「基礎情報学」の有用性を考えれば、生徒の状況を踏まえた上で、積極的にその内容を取り入れてゆかなければならない。